辛子やわさびをはじめ、多くのパッケージ製品には開封を容易にするための切り込みが施されています。しかし、視力の低下している方々にとって、これらの切り込みを見つけるのは困難な場合があります。
「マジックカット」と称される革新的な包装技術は、切り込みを使用せずに、パッケージの任意の部分から容易に開封できる特長を持っています。
この技術は、わさびやからしのパックだけでなく、お菓子、リフィルパック、インスタント食品のスープパックなど、多岐にわたる商品に応用されています。この技術により、パッケージに記載されている任意の部分から製品を簡単に開けることができます。
この記事では、「マジックカット」の原理と開発背景について深掘りします。
マジックカットの原理
物体に力が作用すると、その内部で応力と呼ばれる抵抗力が生じます。この応力は、力の加え方や物体の形状によって異なります。
穴や溝がある場合、その部分の応力が局所的に高まります。通常の袋は力を加えても破れにくいですが、切り込みがあると容易に開けることができます。
この現象は「応力集中」と呼ばれ、日用品に広く利用されています。例えば、割り箸に入っている中央の切り込みや、缶ジュースのプルタブ周辺の切り込みがこれに該当します。
マジックカット技術もこの応力集中現象を利用しており、袋の端には目に見えない微細な傷が施されています。これらの傷は表面だけにあり、袋全体を貫通しているわけではありません。
「どこでも開けられます」と記載された部分を引っ張ると、傷から裂け目が広がり、次の傷に到達しやすくなり、それが連鎖して簡単に開けることが可能になります。
物流過程での損傷を防ぐために、傷の長さと間隔はそれぞれ0.5ミリメートルに設定されています。また、傷の形状は直線ではなく三日月形であり、これにより一気に裂けることが防がれています。
マジックカットの革新的な開発物語
マジックカット技術を開発した旭化成パックスは、食品包装フィルムやプラスチック容器を生産する旭化成グループの一員です。
この技術の開発は、ある副社長が新幹線の車内でスナックの開封部を見つけられず、結局スナックを開けずにビールだけを飲んだ経験に触発されました。帰宅後、彼は技術者に指先で容易に開けられる包装の開発を提案しました。
しかし、開発過程は多くの難題に直面しました。輸送中の誤開封を防ぐための多くの切れ込み、食品安全のためのフィルムを柔らかくする化学処理、コストがかかるレーザー穴開けなど、多くのアイデアが検討されましたが、いずれも採用されませんでした。
最終的には、チケットの半券のミシン目から着想を得てマジックカットが考案され、5年間の開発期間を経て1987年に特許を取得しました。
初めは普及しなかったものの、1993年に大日本印刷とのライセンス契約を結び、広く普及しました。現在では2000以上の商品に採用され、数百億円の売上を誇るヒット商品となっています。
マジックカットの限界
マジックカットは「どこからでも簡単に切れる」という触れ込みですが、実際には切れない場合もあります。
例えば、手や袋が湿っている場合、滑りやすくなり切りにくくなることがあります。また、袋の材質や繊維の方向が切る方向と合わないと、切りにくくなることがあります。
さらに、袋の端部分や熱圧着層が硬い場合、完全に切り通すのが困難な場合もあります。
総括
マジックカットの特許取得から約30年が経過し、特許の保護期間は終了していますが、その独自性と高い技術力のため、現在も多くの企業がこの技術をライセンス契約で使用しています。
以上、マジックカットの開発背景とその効果、制約についての紹介でした。